「学び直し」の機会を創る

先日某大手放送局より、管理職クラスにプロジェクトマネジメント(PM)研修を提供してほしい、との依頼をいただき、実施してまいりました。大手企業の管理職となれば、プロジェクトの経験も豊富であり、それなりの実践知識もあると思いますが、依頼の背景には「今の若手社員は基本的なPM知識を大学などで学び、社内研修でも2-3年目社員向けに設定がある。現マネージャーは体系立ててPMを学んだことがなく、若手社員と方法論をベースとした意思疎通ができない」という悩みがありました。

 

「学び直し」(リスキリングまたはアップスキリング)という言葉を最近よく耳にします。DXの必要性が企業内で高まり、新聞誌面においても「AIやクラウド要員を1500人育成(キャノン)」「国内の全16万人にデジタル教育(日立製作所)」「企画部門にデータ解析など20時間の研修(SOMPOホールディングス)」など、大手企業の再教育の取り組みが日々紹介されています。

とある解説によると、「リスキリング:特に企業の戦略(DXなど)のなかで新しく生まれた職を得るための職業能力再開発」「アップスキリング:既存の職務をより高度なレベルでこなすためのスキルを身につけること」とのことですが、どちらもある程度の経験を積んだうえであらためて「学び直す」という意味でとらえてよいかと思います。

ということは、学び直しとはDXなどの新しい技術分野に限らず、既存分野、例えば前述のプロジェクトマネジメントなど自分たちの世代では学ぶ機会が与えられなかったもの、リーダーシップやダイバーシティなど様々な解釈や考え方が生まれるもの(KPIなのか?OKRなのか?も然り)なども該当するということです。若い頃に会社が用意してくれた研修や通信教育で学んだことを20年以上も更新せずにいる上司が(しかも大概忘れている…)、最新の理論を学んできた部下たちを従えている…という構図は、実は組織のあちこちで見られる状況なのではないでしょうか。

 

残念なことに日本の社会人の学びに対する姿勢は、諸外国に比べると低いようです。文部科学省の2012年の調査によると、「大学入学者のうち25歳以上の割合は、日本:1.9%(OECD加盟各国平均:18.1%)」「非大学高等教育機関の場合25歳以上の割合は、日本:21.0%(OECD加盟各国:34.6%)」となっています。

2009年に東京大学が行った「大学教育に関する職業人調査」によると、大学院進学の障害として「費用が高い」「勤務時間が長すぎる」「職場の理解が得られない」(職場の理解ってなんだ?就業時間外に学びに行くのに職場の理解が必要なのか??)などが調査結果の上位にありますが、ここまではなんとなくわかるような気がしても、2018年のリクルートワークスの調査による、「仕事に関連した学び行動を取らなかった理由の第一位:『あてはまるものはない:51.2%』というデータを見ると、本当にこれでいいのか!と… つまり特段障害はないが、「学ばない」ということなのです。単に意識の問題、ということですね。「学ばなくても、困らない」という日本の働く環境の仕組みに問題があると思いますが、きっといずれ「困る」ことになるでしょう。

 

過去の陳腐化した成功体験(武勇伝?)だけで生きていけるという、旧来の日本的組織文化の悪さを他責的に語っていても自分自身の道は開けません。冒頭の大手放送局のような管理職に対する学びの機会の設定、新聞で紹介される大手企業のような取り組みなどを組織に期待しても、自分自身が本当に学ぶべきものとも限りません。まず自分自身が現状をしっかりと捉え(自分のポジションに見合った責任を、最新の知識によって果たせているか?)、将来を見据え(できるだけ永く社会に対して付加価値を提供できる存在でいれるのか?)、貪欲に学びに対する意識を高める必要があると思います。…と自分自身にも言い聞かせております。(本間)