大学ラグビーで前人未踏の9連覇を成し遂げた帝京大の岩出雅之監督が、今年4大会ぶりの大学日本一を果たし、勇退を発表した。彼が育てた選手から多くの日本代表が選出され、2019年ワールドカップでの日本の大躍進に繋がったことは周知の事実だが、能力のある選手を集め、ただ強いだけのチームやプレイヤーを作ったわけではなく、人間教育をベースにそれを行ったことにいろいろと学びがある。
9年もの間、学生ラグビー界の頂点に君臨し続けるとはどういうことなのか、常に変化し続けることができたからこそ、である。そうでなければ現状うまくいっていることへの驕りが生まれ、ライバルチームに研究され、連覇は不可能であったと思う。そしてその変化を生むのは監督ではなく、学生自らでなければならない。
あくまでも学生がすべきことを自分で考え、行動する。その自律性が強さを生む。
「変われと言っても人はなかなか変われない。言えば言うほど、ゴムと一緒で伸ばすとまた元に戻ってしまう。」
「変わってもらうには、成長を助けるいい体験ができる環境をつくること」
そしてその体験とは、周囲が体験を評価するのではなく、自分自身で体験に「意味づけ」ができてこそ、初めて自分の糧になるものである。そのために、
「体験したことを言語化して『経験』に変えさせる(リフレクション(内省)という作業)」つまり、日々の練習の中で問題点や改善点を言葉にする時間を取る。この「言語化」によって自分自身の中での気づきが促進され、そこから意味が生まれ、学びに繋がるということである。
「最近の学生は自分の考えを持とうとする良さがあるが、注意されることに慣れていない」という言葉にも気づかされることがある。他人に指摘されるよりも、自分自身で気づくことのほうが明らかに前向きに受け止めることができるはず。そのための「内省」という作業でもある。さらに、
「学生がどのようにしたら人の話を受け入れるか、考え方を前向きにしていけるか、それぞれにかける言葉の違い、かける人の違いは考えてきた」
全員一律の対応ではなく、選手個々の特性に目を向け、自主性を促すために最低限のアドバイスだけを行ってきた。
成果を上げ続ける組織作りのためには、人の育成・成長は不可欠。それは企業組織も同様である。一人ひとりの内省を促し、気づきを生み、自律性を高めるアプローチを管理職は取れているのか。部下それぞれを見、声を聴き、個性に合ったアドバイスができているのか。日本の管理職たちの反省点は多い。(本間)